スローなコメディにしてくれ
Photo N.Kurisu

2018.4.21

成功する〈人情酒場〉は、バイト時給1100円+おいしい賄い付きである。

by 須田 泰成

お知らせ

人手不足が深刻な昨今。
流行っている店でも、閉店することがあると、よく聞きます。

また、2014年の消費税増税(5%→8%)後は、
消費者の財布のヒモもじわりじわりと固くなり、
同時にあらゆる経費(食材仕入れ、家賃・光熱費、人件費、交通費など)が
高くなり、飲食店にとって厳しい状況が続いています。

そんな中、賑わいを維持しながら、
学生アルバイトが元気に働くお店があります。

世田谷区のグルメタウンとして有名な
小田急線・経堂駅から徒歩3分の居酒屋「らかん茶屋」さん。

らかん茶屋さんは、
ブランド鯖・金華サバを手頃な値段で食べることができる
サバ尽くしも有名な店。

冷凍食品の多いチェーン店の宴会に飽きた方に、
4500円の飲み放題コース(2時間)がお得で、
都心で飲み食いしたら大変な額になる美味が、リーズナブルプライス。
こちらの記事を参考に(←クリック)

ここの学生アルバイトの時給が、なんと1100円!なんです。

それだけではありません。
夜のまかないは、
刺身、天ぷら、サラダ、筑前煮、高知の真嶋農園のフルーツトマトなど、
おいしい食べ物のオンパレード。

黙々と賄いを食べる学生さんたち。
二十歳以上になると、お酒も飲むことができます。

どんぶり飯は、お代わり自由!

金華さばの竜田揚げ

新鮮な野菜のサラダ!

金華さばの塩焼き!

豆腐と季節の野菜の揚げだし!

筍と野菜のあんかけ!

瀬戸内の鯛の刺身!

高知の眞嶋農園のトマト!

その日によってメニューが異なりますが、
学生さんたちは、美味しいものを食べることができます。

大将の春さんは、こんな人。
この2年、経堂こども文化食堂に無償の唐揚げを寄付してくださる漢気のある方。

学生バイトに美味しいものを食べさせるのには、理由があると語ります。

「オレは、学生時代に港区三田の慶応大学前の商店街にあった居酒屋でバイトしてて、
そこのオヤジが仕事は厳しいんだけど、営業が終わったら、そこの家族と同じ賄いを
食べさせてくれて、必ず冷えたビールの大瓶をオレたち一人一人にくれるわけ。
金のない当時、うれしかったね。時々、精肉店で買ったいいステーキ肉を焼いて、
食わせてくれたりさ。それで、いろんな味を覚えていったというのもあるね」

大将、春さんの太っ腹のルーツは、そこにあったのだ。

「あとさ、これから社会に出ようって学生さんは、美味いものを知ってないとダメ。
オレの店でバイトすれば、まあ、失敗すると怒鳴ったりもするし、厳しいけどさ、
1年もいれば、だいたい、魚や野菜に旬があって、その時期に食べると美味しい、
仕入れも安いとかが、うっすらとわかってくるんじゃないかな。
2、3年いれば、焼いたり揚げたり、基本の料理くらいはわかってきて、
企業に入っても、飲み食いする場でも、大人と話ができるようになる」

東北の水産業の復興にも力を注いできたり(←クリック)
全国の生産地(農業、水産業、加工業)からの直接仕入れを行い、地方活性化にも寄り添ってきた(←クリック)らかん茶屋さん。

卒業生たちは、就職活動の面接で、
らかん茶屋でのアルバイト経験の話をして、いい就職先が決まることが多い、という。

「学校の成績は良くないのに、面接だけ強いんだよ。
うちのアルバイトは(笑)」と、豪快に笑う大将。

「あと、うちは広告に金を使ってアルバイト募集しないんですよ。
そんな金があったら、学生さんに多く払った方がいい」

大将の春さんは、年に数回、
地方の生産地に旅をして、生産者と直接会って現場を見て話すツアーを行い、
自腹を切って学生アルバイトを連れていきます。
写真は、昨年の四国生産地ツアーで訪れた高知県宿毛市。

高知入りの前日は、らかん茶屋の卒業生・白川さんが
香川県丸亀市で営む「酒房うり」にて宴会。

卒業生との師弟関係も大切にしています。

こういう体験を学生時代にできれば、それは「面接に強くなる」はずです。
らかん茶屋には「生きた社会勉強」があるのです。

賄いを食べている時に、店の定連の大人たちとふれあい、
学校では教わらない、仕事の話、知らない世界の話を聞いたり、
人のつながりも生まれます。

そんなケチケチしない大将の店には、農大をはじめとした学生が集まってきて、
卒業しても、頻繁に飲みに来るのも特徴です。

歴代のアルバイトがカウンターにズラリと並ぶことも珍しくありません。

今年67歳の大将の店なのに、20代、30代も多く、客層の平均年齢が若いんです。

仕事終わりの大将に「おつかれさまです!」と、お酌する20代女子も。

卒業後、らかん茶屋で働き続けて、本格的に修行をした後に、
地方に戻って自分の店を持った人は、七名もいます。

そして、卒業生たちは、東京に来ると、遊びにきたり。
30年以上前のアルバイト学生の友人たちが貸切の宴会をしたり。
人の輪は、じわじわ育ち、熟成を続けているのです。

世知辛い時代、自分のことばかり考えて、
働く人たちの労賃を削り、損をしないことばかり考える経営者が多い中、
経堂らかん茶屋さんの、「まず与える」からはじまる、
こういう縁のつながり、広がりは、理想だと思います。

経堂こども文化食堂に無償提供の唐揚げをつまみに飲みたくて、
電車に乗ってやってくる人もたくさんいます。

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須田 泰成

「スローなコメディにしてくれ」
 編集長+プロデューサー+ライター。
always look on the bright side of human life♩な
「もの+こと+ひと」を取り上げながら、
地域や企業のリアル・ムーブメントも熟成発酵させている。

世田谷区経堂と全国の地域の生産者と文化をつなぐ
経堂系ドットコムを2000年から運営。
イベント酒場さばのゆをハブに全国のつながりを醸す日々。
東日本大震災の津波で流された石巻の缶詰工場・木の屋石巻水産
の泥まみれの缶詰を洗って売るプロジェクトは、
さばのゆから全国に広まり、約27万個を販売。
工場再建のきっかけとなった実話をまとめた
復興ノンフィクション
『蘇るサバ缶〜震災と希望と人情商店街〜』(廣済堂出版)が
2018年3月に出版された。
その他、経堂こども文化食堂など、ソーシャルな活動も多い。

本業は、著述、映像・WEB制作、各種プロデュース。
著書に『モンティパイソン大全』(洋泉社)、など。
脚本・シリーズ構成に『ベイビー・フィリックス』(NHK),
『スーパー人形劇ドラムカンナの冒険』(NHK)など多数。

『シャキーン!』(NHK)『すっぴん!』(NHKラジオ第一)
などの番組立ち上げもいろいろ。

テレビ、ラジオ、WEB、脚本、構成、
執筆、制作、講演などの仕事多数。
お仕事も承っております。
Twitter:@yasunarisuda
facebook:https://www.facebook.com/yasunarisuda
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