2017.5.22
「林」と「森」の違いに笑いが潜む。「まず企画書」をやめてオモシロイ本を出す方法。
新しい本のルネッサンスがはじまる
以上が、企画書ナシでオリジナルの本のシリーズを立ち上げ、
現在9冊目を制作中という岡部敬史さんの実話である。
企画を通して予算をつけてから動いたわけではないので、
最初は、当然ながら持ち出しだったというが、
いまでは、このシリーズがらみで、オモシロイ仕事の依頼が増えている。
少し時間はかかったが、トータルで見ると黒字。
「やりながらわかったのは、やっぱり本はスゴイということですね。
どんなに何かのジャンルに詳しくても、ネットに情報をアップしているだけだと、
やはりそこまでなんですね。
それが、ちゃんとした出版社から出た本というカタチになると、
それこそ放送局や出版社、新聞社も反応するし、つまり、メジャーでも戦えるようになる」
確かに、岡部さんが、
同じネタを自分で写真を撮ってブログにアップし続けたとしたら、
それはそれでオモシロかったとは思うが、
どちらかというと安っぽいカルチャーとして消費されてしまったように思う。
本だからこそ、オモシロイことが増幅するダイナミズムが生まれたのだ。
「あと、プロと組むというのも大事だと思います。
いまは誰でも自分で写真やデザインできますけど、
このシリーズは、山出さんが写真を担当、
佐藤さんがデザインを担当したから成立した。
ぼくは、通るかどうかわからない企画を進める時、
その人の気持ちを無下にできない人に頼むんです。
そうすると、巻き込んだ以上、途中でやめるわけにはいきませんからね(笑)」
近年、出版不況と言われる一方で、小さな出版社が増えている。
DTPによって、効率よく本をつくり、SNSによって情報発信や顧客管理を行い、
フットワーク軽く販売イベントを開催する元気のいい出版社が増えていることを、
岡部さんは「非常にオモシロイ流れ」と言う。
「本は、映画や演劇などと比べて、
かなりローコストで作ることができるのも優れたところと思います。
それでいて世の中を動かす力がありますし。
実は、ぼくは、これからは、むしろ本の時代なんじゃないかと思っています」
2014年に出た『目でみることば』の三冊目の表紙は、狸寝入り。
こちらのP.58〜59の見開きのテーマは「風穴を空ける」。
そして、「風穴」そのモノの写真が、こちらの通り。
岡部さんの説明文には、
「息詰まった組織に新しい風を送ること。閉塞した状況を打開すること」
とある。
このページを見た時、筆者は、驚いた!
この「風穴」は、新宿駅西口の地下街を換気するため地上に設置されたもので、
かなり巨大な建造物だが、
日頃よく新宿駅の西口を歩く筆者でも、見えているようで、見えていなかったのだ。
しかし、よく考えれば、随分以前から、そういえばあった。
オモシロイのは、この本によって、一旦、その存在を認識して意味を知ると、
「風穴」の存在に親近感が湧いてきたのだ。
以前は、西口広場の地上に「邪魔っけで不格好なデカイものがある」と、
なんとなく思うくらいだったのが、
いまでは「これがあるから、地下街を酸欠にならずに歩ける」
という感謝の気持ちさえ覚えるようになってしまった(笑)
経済の停滞や人口の減少など、不安要因が多い世の中ではあるが、
岡部さんの話を聞き、本を読んでいると、
いま実は、じわじわと本のルネッサンスが起きているような気がしてくる。
オモシロイ本がたくさん生まれて、社会の「風穴」がどんどん開く。
そんなスローなコメディの時代を創らなければいけないと思う。
最後の写真は、
『目でみることば』の「試金石」の頁を手にした岡部さん。
そう。人は、知的な発見に触れると笑う生き物なのである。