スローなコメディにしてくれ
Photo N.Kurisu

2017.9.4

エロい、ダメ人間が人気の秘密。若い常連客で賑わう70代店主の店。

by 須田 泰成

人生を切り拓くイノベーション

70歳を超えて、女子大生にエロい!ヒドい!と笑われ愛される

1999年頃に急激に居酒屋の経営方針の
面舵を大きく明るいエロ方向に切った
長谷川一平さんの店・鳥へいは、どんどんエロくなっていった。

「健康維持のため」と言いながら太極拳と気功を学びはじめてからは、
好みの女性客に頻繁に気功マッサージを施すようになった。

ある秋の日、平日の火曜日19時頃に鳥へいを訪れ、
ドアを開けようとしたら内側から鍵がかかっている。
覗いてみると、一平ちゃんが当時お気に入りだった
Tちゃんを椅子に座らせて一心不乱に脚を揉んでいる。

何度もノックしたが、
チラとこちらを一瞥すると、
そのまま無視してマッサージを続行した。

「健康維持のため」は、嘘だと確信した瞬感。
ただただ女性に触れたかったのだ(笑)

そんな鳥へいは、18年経った2017年になっても、
変わらず若い人たちが集まり、支えられている。

儲かっているようには見えないが、潰れそうにも見えない。


(中国で行われた中国武術の世界大会へ。ここでも女性に囲まれている(笑))

21世紀に入り構造改革が進み、
非正規社員の割合が増え、格差が拡大。
昭和の豊かな中産階級は消滅に向かうと言われるようになった。

2008年のリーマンショック、
2011年の東日本大震災による影響も大きかった。

2014年に消費税が5%から8%になり、
次は10%と言われる他に社会保障費が次々と値上がりし、
日本の一般ピープルの可処分所得は、じわじわ下がり続けている。

実際、ニッポン人が「外飲み」に使う金額は、
1994年をピークに下がり続け、
競争力が高いと思われてきたチェーン店も
収益悪化と事業縮小のニュースが流れる時代。

地方の疲弊も凄まじい。
シャッター通りと呼ばれた駅前商店街は、
建物さえも撤去され、駐車場になる地域がではじめている。
限界集落という言葉も限界を超え、
いまや消滅集落という言葉が聞かれはじめている。

世の中は、じわじわと厳しくなっている。

いまの時代に鳥へいに来る若者たちは、
昔よりも貴重なお金をもって、鳥へいに来ているのだ。

先日、数年前から通っている20代の女性客に
「なんで鳥へいに来るの?」と聞くと、
「一平ちゃんという珍獣見学って感じかな。
 それと介護(笑)」と、言いながら爆笑していた。


(仕事が休みの日、一平ちゃんをランチに誘う20代女子もいる。年の差およそ半世紀=50歳)

その隣にいた30代前半の女性は、
「なんか楽なんです。たまにエロいこと言うけど(笑)
職場の男の人はみんな上から目線で鬱陶しいけど、
一平ちゃんは下から目線(笑)」
と、こちらも大声で笑った。

「先月、12回目の店の契約更新をしちゃったから、
 74歳までやんなきゃいけないよね」という一平ちゃんは、
2017年11月に71歳になる。

「エロい、ヒドい、ダメ人間、いままでの人生なにをやっても
 上手くいかなかったし、テストの点数でいうと、
 そうだねぇ、ま、よくて40点。それでいいんじゃない」と、笑う一平ちゃん。

常連の女性客が「下から目線(笑)」と指摘するように、
50歳近く年の離れた若者が店に入ってきても、
自分のことを
「ゴメンね。身寄りのない孤独な老人でーす」などと、
自虐をまじえ、自分を低く低く見せながら話をするかr、初めての人でも馴染みやすい。。

「エロい、ヒドい、ダメ、人生よくて40点くらい」を良いとするのは、
弱者を斬り捨て、利権に近い経済的な勝ち組に際限なく富が集まる
ように動く現在の社会システムとは対局の考え方だ。

が、そのスローコメディな人生観にオアシスを感じ、
若い世代が集まってくることを考えると、
一平ちゃんの生き方は、案外、本物の勝ち組ではないかと思えてくる。

一平ちゃんにそう伝えると、
「勝組って、勝新太郎の組かい? いいねえー!」という、
返事が返ってきた。

そんな一平さんは、2018年10月後半、お客さんに誘われて、
アメリカの西海岸に旅をした。
以下の画像は一平さんのFacebookより。

「エロい、ヒドい、ダメ、人生よくて40点くらい」だからこそ、
気取らない一平さんに若い人が集まってくる。
こんなダメエロファンキーな人生は、かなり素敵だと思う。

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須田 泰成

「スローなコメディにしてくれ」
 編集長+プロデューサー+ライター。
always look on the bright side of human life♩な
「もの+こと+ひと」を取り上げながら、
地域や企業のリアル・ムーブメントも熟成発酵させている。

世田谷区経堂と全国の地域の生産者と文化をつなぐ
経堂系ドットコムを2000年から運営。
イベント酒場さばのゆをハブに全国のつながりを醸す日々。
東日本大震災の津波で流された石巻の缶詰工場・木の屋石巻水産
の泥まみれの缶詰を洗って売るプロジェクトは、
さばのゆから全国に広まり、約27万個を販売。
工場再建のきっかけとなった実話をまとめた
復興ノンフィクション
『蘇るサバ缶〜震災と希望と人情商店街〜』(廣済堂出版)が
2018年3月に出版された。
その他、経堂こども文化食堂など、ソーシャルな活動も多い。

本業は、著述、映像・WEB制作、各種プロデュース。
著書に『モンティパイソン大全』(洋泉社)、など。
脚本・シリーズ構成に『ベイビー・フィリックス』(NHK),
『スーパー人形劇ドラムカンナの冒険』(NHK)など多数。

『シャキーン!』(NHK)『すっぴん!』(NHKラジオ第一)
などの番組立ち上げもいろいろ。

テレビ、ラジオ、WEB、脚本、構成、
執筆、制作、講演などの仕事多数。
お仕事も承っております。
Twitter:@yasunarisuda
facebook:https://www.facebook.com/yasunarisuda
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