スローなコメディにしてくれ
Photo N.Kurisu

2017.9.4

エロい、ダメ人間が人気の秘密。若い常連客で賑わう70代店主の店。

by 須田 泰成

人生を切り拓くイノベーション

エロい、ヒドい、ダメ人間。下から目線(笑)が若い客を呼び寄せる。

1999年当時、53歳にして独り者に逆戻りし、
自分も店も潰れそうになっていた一平ちゃんは、捨てるものがなかった。

「店が潰れたら田舎の温泉旅館に住み込みで働く」というのも、
当時の一平ちゃん語録のひとつだった。

捨てるものがない人間の中には、本能的になるケースもあるらしい。

ある日、私が気づいたのは、
一平ちゃんは「女性客が来ると、エロくなる(笑)」ということだった。

当時は、まだまだコンビニなども少なかったため、
仕事帰りのOLさんが、釜飯定食、焼鳥丼などの文字に
釣られて入って来ることがあった。


(焼鳥丼の定食。味噌汁と糠漬けがつく)

そんな女性客が一平ちゃんを刺激した。

知らないうちに、女性が入ってくると、
いやらしい目でじっと見つめ話しかけるようになったのだ。

語調は、どんどんC調に。

「お名前は? ああそう。いい名前だねー♩
 ぼく、一平ちゃん、一平ちゃんって呼んでね」

いきなり下の名前で呼びはじめ、
「木曜日、定休日だから、いつでも誘ってね」と、切り出すように。
少しすると、急に真顔になり、
「オレたちもう始まってるかな?♡」と、語りかけるのだった。

でも、一平ちゃんの言葉は、
ほぼ100%、真剣に受け取られることはなく、虚しく散る。
女性客は、一平ちゃんの一言一句にケタケタ笑い、
「また来ます!」と言って、帰り、また暫く後にやって来るのだった。

エロさが、女性客を呼び寄せる。

調子にのった一平ちゃんの明るいエロトークは、
毎週、毎週、エスカレートしていった。

半年ほどすると、私から見ても、
「えっ、この人こんな軽い人だったっけ?!」と驚くほどのレベルに達していた。

しかし、元気を取り戻したかに思えた一平ちゃんだったが、
深夜になると暗くなった。

「デッドシティーにようこそ」

私と一対一になると、このフレーズが、復活するのだった。

「農大商店街にどんどん安い店ができて、るし、売上げが危険水域だよ」

「これからの時代、この街で一番というものがないと、
 なかなか苦しいのかもしれない」と、一平ちゃんが呟いた時、
 私の頭の中にピカーンと閃きがあった。

私 「一平ちゃん、この街で一番、あるじゃないですか!」

一平「えっ、オレが一番?なんだよ?」

私「一番エロい!」

一平「エロだぁ?」

私「一番エロい!それしかない!」

急な思いつきを元に会話をしながら、
私の頭の中では、あるイメージが出来上がっていた。

「経堂一のエロ親父」


(鳥へいの銭湯風広告。仙台出身エロ親父の文字が)

この半年ほどを振り返ると、
一平ちゃんの明るいエロトークを楽しんで、
女性客がポツポツ増えはじめていた。

それにエロさを発散させている一平ちゃんは、
見たこともないほど、楽しそうなのだ。

一平ちゃんのエロさの良いところは、
「実害がない」ところ。
エロいことと言っても、
性的なところに踏み込んだりはしない。
デートに誘っても経堂の顔見知りの店で
軽く飲み食いするくらい。
女性客も安心してオモシロがれる珍獣的な要素が
一平ちゃんなのだった。

一平ちゃんが、このままどんどんエロくなっていけば、
鳥へいは、時代や景気の波に左右されない店になるのではという
予感が不思議と確信に変わっていた。

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須田 泰成

「スローなコメディにしてくれ」
 編集長+プロデューサー+ライター。
always look on the bright side of human life♩な
「もの+こと+ひと」を取り上げながら、
地域や企業のリアル・ムーブメントも熟成発酵させている。

世田谷区経堂と全国の地域の生産者と文化をつなぐ
経堂系ドットコムを2000年から運営。
イベント酒場さばのゆをハブに全国のつながりを醸す日々。
東日本大震災の津波で流された石巻の缶詰工場・木の屋石巻水産
の泥まみれの缶詰を洗って売るプロジェクトは、
さばのゆから全国に広まり、約27万個を販売。
工場再建のきっかけとなった実話をまとめた
復興ノンフィクション
『蘇るサバ缶〜震災と希望と人情商店街〜』(廣済堂出版)が
2018年3月に出版された。
その他、経堂こども文化食堂など、ソーシャルな活動も多い。

本業は、著述、映像・WEB制作、各種プロデュース。
著書に『モンティパイソン大全』(洋泉社)、など。
脚本・シリーズ構成に『ベイビー・フィリックス』(NHK),
『スーパー人形劇ドラムカンナの冒険』(NHK)など多数。

『シャキーン!』(NHK)『すっぴん!』(NHKラジオ第一)
などの番組立ち上げもいろいろ。

テレビ、ラジオ、WEB、脚本、構成、
執筆、制作、講演などの仕事多数。
お仕事も承っております。
Twitter:@yasunarisuda
facebook:https://www.facebook.com/yasunarisuda
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