スローなコメディにしてくれ
Photo N.Kurisu

2017.4.18

AI(人工知能)が人類の未来を脅かす時代に駄洒落で挑む会社の勇気の物語

by 須田 泰成

ファンキービジネス物語

大手企業の〈共缶〉が広がるサバ缶

マーケティング担当の有沢幸夏さんは、「サーバー屋のサバ缶」について、こう語る。

「弊社のオリジナルとして製造した「サーバー屋のサバ缶」は、
IT業界のイベントなどで、話すきっかけになったと思います。
会場のブースに並べていると、
立ち止まって「これ何ですか?」と、話しかけてくれる人が増えました。
良質な会話が弾み、震災復興のストーリーに感動されたり、
弊社のサービスに興味を持ってくださる方も増えました」

社内で分析したところ、「サーバー屋のサバ缶」の成功の理由は、以下の3つだという。

①「サーバー屋のサバ缶」という駄洒落がオモシロイ
②駄洒落商品なのに味が素晴らしくウマい
③震災復興のストーリーがある

「驚いたのは、名刺と一緒に「サーバー屋のサバ缶」を渡すと、
時間がなく詳しくお話できなかったのに、
『サバ缶を家で食べたら美味しかった!』と、
イベント後にわざわざメールをくださる方が少なくないのです。
それを機会にビジネスのお話に発展したケースもあります。
やっぱり木の屋石巻水産さんのサバ缶の味の力だと缶謝です。
おいしい!ってスゴイです。本当に勉強になります」

2015年2月にスタートした
「サーバー屋のサバ缶」プロジェクトは、
IT業界のイベントで展示するだけではなく、
日本の良いものを売る店舗で実際の販売を経験したり、
集まった寄付金を東北のこどもたちを支援する
活動団体モリウミアスに手渡すために石巻を訪れたり、
ビジネスとCSR活動の両立を続けるうちに、予想外の広がりが生まれてきた。


「IT関係のフェアなどで、ブースにサバ缶を積んでいると、
知ってるよ!とお声掛けくださる方が増えてきました。
さらには、企業様の中に、『うちもサバ缶をつくりたい!』と
オファーをくださるケースが出てきました。
それで「サーバー屋のサバ缶」をシリーズ化することになったんです」

最初に名乗りを挙げたのは、
なんと、東証一部上場のトレンドマイクロ株式会社だった。
(本社:東京都渋谷区、代表取締役社長兼CEO:エバ・チェン、
東証一部:4704 以下、トレンドマイクロ)。

ウイルスバスターなどのセキュリティーソフトの大手であることから、
2016年3月、シリーズ第一弾として、
「サーバーを守る会社のサバ缶」というネーミングの
サバ味噌缶を製造することになった。

ラベルデザインは、
トレンドマイクロ社のコーポレートカラーの赤を基調とした、
写真のようなものになった。
ノベルティのため一般への販売はしないが、IT業界のイベントで話題となり、
社会に被災地の現状への関心を喚起する役割を果たしている。

そして、さらに、2017年3月には、
NTTコミュニケーションズ株式会社
(本社:東京都千代田区、代表取締役 社長:庄司 哲也、
以下:NTT Com)の賛同を得て、
「サーバー屋のサバ缶」シリーズの第二弾として、
「世界をつなぐ会社のサバ缶」が誕生。

ラベルデザインは、コーポレートカラーの青を基調としており、
サバ=青魚というところから、シリーズ初のサバ水煮缶となった。

この「世界をつなぐ会社のサバ缶」もノベルティのため、非売品となるが、
やはりIT業界を中心とした社会に
被災地の現状への関心を喚起する役割を果たしている。

〈サーバー管理〉〈サバ缶〉という駄洒落。
極めて人間らしいアナログな発想から始まった
「サーバー屋のサバ缶」プロジェクトの快進撃は、
ビッグデータとAI(人工知能)によるマーケティング分析を踏まえた
情報発信が当り前になりつつある現在、
むしろ手づくりの温もりさえ感じさせるプロジェクトだ。

これまでの3年間を振り返って、高橋専務が次のように語った。

「ただの駄洒落なのに驚くほどの広がりを見せている理由を
自分なりに考えてみました。
サバ缶の美味しさと、社会貢献の要素があることなど、いろいろありますが、
活動を1日も休まずに〈続ける〉ことも小さくないと思います。
ビッグデータとAIの分析は、ものすごく高度なように見えて、
過去のデータを対象にしているんです。
でも、〈続ける〉というのは、未来を意識しているんですよね。
「サーバー屋のサバ缶」は、よくあるような、
一度きりのイベント用に作って終わりというモノではなく、
ずっと木の屋石巻水産さんと一緒に作っていきたいモノです。
できれば、何十年先も何百年先も。
この一緒に未来を創っているというところに興味や魅力を感じてくださる
人や企業様がいらっしゃるのかも知れません。
もとは駄洒落なんですけどね(笑)」

スカイアーチネットワークのホームページには、
決意表明とも取れる以下のコピーがあった。

・・・IT業界と被災地をリアルにつなぎ、
社会に被災地の現状への関心を喚起するアイテムとして、
これからも息の長いサバ缶プロジェクトを続けてまいります。・・・

ずっと未来への意志を持ち〈続ける〉こと。
被災した地域を思うこと。
時には駄洒落を言いたくなったりすること。
AIが存在感を増す世の中ではあるが、
こういうことこそが、
「人間にしかできないこと」なのではないか。

たかが駄洒落と笑うなかれ。

そして、人間が楽しむ駄洒落づくりをAIが手伝う未来も、
すぐそこまで来ているのかもしれない。

それは、ブラックコメディな未来だろうか、スローコメディな未来だろうか。

筆者は、やはり「スローなコメディにしてくれ」と、思うのだ。

「サーバー屋のサバ缶」シリーズ、
青、赤、黄と3食が揃い、信号機になりそう。

参考:株式会社スカイアーチネットワークス 公式サイト

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須田 泰成

「スローなコメディにしてくれ」
 編集長+プロデューサー+ライター。
always look on the bright side of human life♩な
「もの+こと+ひと」を取り上げながら、
地域や企業のリアル・ムーブメントも熟成発酵させている。

世田谷区経堂と全国の地域の生産者と文化をつなぐ
経堂系ドットコムを2000年から運営。
イベント酒場さばのゆをハブに全国のつながりを醸す日々。
東日本大震災の津波で流された石巻の缶詰工場・木の屋石巻水産
の泥まみれの缶詰を洗って売るプロジェクトは、
さばのゆから全国に広まり、約27万個を販売。
工場再建のきっかけとなった実話をまとめた
復興ノンフィクション
『蘇るサバ缶〜震災と希望と人情商店街〜』(廣済堂出版)が
2018年3月に出版された。
その他、経堂こども文化食堂など、ソーシャルな活動も多い。

本業は、著述、映像・WEB制作、各種プロデュース。
著書に『モンティパイソン大全』(洋泉社)、など。
脚本・シリーズ構成に『ベイビー・フィリックス』(NHK),
『スーパー人形劇ドラムカンナの冒険』(NHK)など多数。

『シャキーン!』(NHK)『すっぴん!』(NHKラジオ第一)
などの番組立ち上げもいろいろ。

テレビ、ラジオ、WEB、脚本、構成、
執筆、制作、講演などの仕事多数。
お仕事も承っております。
Twitter:@yasunarisuda
facebook:https://www.facebook.com/yasunarisuda
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