ニッポンの はたらく(楽)ひとびと[第一回]
磨いた革靴の光沢に明るい未来が映る。
広島・靴磨き専門店「BURIE」
安部春輝さん(1991年生/25歳)
政府の「働き方改革」がメディアを賑わし、
「働き方」「はたらきかた」を指南する本やセミナーも人気のようだ。
格差が広がり、税金や社会保障費が上がり、
可処分所得や年金が下がり、
ごく一部のソンタク界隈の人間以外は、
一般人は死ぬまで働くがアタリマエになりそうな今の時代。
理想の「働き方」は、国民的な関心事項だ。
大切なのは、賃金? やりがい? 資格? 人脈づくり?
シリーズ企画「ニッポンの はたらく(楽)ひとびと」では、
人生は〈楽〉のある仕事で変わる。をテーマに
「はたらく」という言葉に宿る「らく(楽)」を知り、
はた(傍=周囲)をらく(楽)にして、自分も人生を楽しむ、
一生もんの仕事に巡りあった人を紹介します。
第一回は、靴磨きの奥深さに魅了された広島の若者のお話。
仕事のセレンディピティは、昭和の飲み屋街にあった
〈はた楽(らく)〉人を探していたら、
広島の良いものを広める活動を個人でしている、
山根かおりさんという目利きの女性から、
「広島駅の西側におもしろい昭和の飲み屋街があってですね。
おもしろい人が結構いますよ」という連絡をいただいた。
おもしろい昭和の飲屋街に目がない私は、早速、広島に飛んだ。
いや、実際の移動は新幹線だったのだが、
気分は文字通り「飛ぶ」思いだったのだ。
昭和の飲屋街は裏切らない(笑)
辿り着いたのは、JR広島駅の西側に残る昭和の古い木造の飲食店街。
小さなお店がひしめきあう通称「エキニシ」と呼ばれるエリア。
一見、広島のゴールデン街のようであるが、
しかし、雰囲気は、遥かにカジュアルで、バーよりも、
居酒屋、和食、イタリアン、焼肉、串カツ、お好み焼きなど、
食事が充実した店が多いのが特徴だ。
「この街には、地元の若い人や観光客も集まってきます。
やっぱり、こういった飲屋街に必要なのは、
若い世代や女性などの新しい酒場ファンなんですよね。
どんな産業でも地域でもそうですけど、
若い世代の流入がなければ、将来的に先細るだけになってしまいます」
西口観光案内所と呼ばれる、界隈のハブ的な店、
立ち飲み「ドラ☆キチ」で山根さんの話をうかがっていると、
近くに、20代半ばという若さの「はたらく(楽)ひと」がいると教えられた。
長屋の路地を少し歩くと、
突然、そこだけヨーロッパの裏町のような空気感の一角が現れた。
中を覗くと、なんと靴の工房だった。
看板に西野靴店とある。
「この二階です」
「まさか」と思いながら狭い階段を登ると、予想しなかった光景が現れた。